音律

楽音の相対的な高低関係の規定を音律と呼ぶ。

ピタゴラス音律

周波数を2倍にすると完全8度上の音程が得られ、3/2倍にすると完全5度上の音程が得られる。

これを用いて定める音律をピタゴラス音律と呼ぶ。

15世紀(初期ルネサンス)頃まで、ピタゴラス音律は西洋音楽の標準的な音律であった。

ピタゴラス音律による全音階を示す。

ピタゴラス音律の全音は 9/8 で平均律よりも約3.9セント広く、半音は 256/243 で平均律より約9.8セント狭い。

音名CDEFGABC
比率19/881/644/33/227/16243/1282
純正律とのセント差0.0000.000+21.510.0000.000+21.51+21.510.000
平均律とのセント差0.000+3.910+7.820-1.955+1.955+5.865+9.7750.000

ピタゴラス音律では純正な完全5度・4度の音程が得られる一方、3・6度の音程は純正より21.5セント広くなる。

ピタゴラス音律で半音階を構成すると特定の音程の響きが非常に悪くなる(下記「ピタゴラスコンマ」参照)ため、移調や転調に制限がある。

純正律

ピタゴラス音律の純正な完全5度(周波数比 3/2)に加え純正な長3度(比 5/4)を用いて構成される音律を純正律と呼ぶ。

ルネサンス初期に理論が確立し、教会音楽・声楽で広く用いられた。

純正律による長音階を示す。

音名CDEFGABC
比率19/85/44/33/25/315/82
純正律とのセント差0.0000.0000.0000.0000.0000.0000.0000.000
平均律とのセント差0.000+3.910-13.69-1.955+1.955-15.64-11.730.000

純正律には2種類の全音が生ずる。ピタゴラス音律の全音と同じ 9/8 の比を持つ大全音(C-D, F-G, A-B)と、平均律より約17.6セント狭い 10/9 の比を持つ小全音(D-E, G-A)である。また半音の比は 16/15 で、平均律より約11.7セント広い。

純正律では I, IV, V の長三和音および III, VI の短三和音が純正音程となり澄んだ響きを得られる。一方 ii - vi (レ - ラ)は純正な完全5度より約21.5セント狭いため、この音程を含む和音は非常に響きが悪い。さらに大全音と小全音が存在するため調ごとに調律が異なる。これらの理由から純正律では転調や移調が困難である。

中全音律

長3度が純正になるようピタゴラス音律を改善した音律を中全音律と呼ぶ。

ルネサンス以降鍵盤楽器の発達に伴い普及し、18世紀ごろまで用いられた。

中全音律による全音階を示す。

音名CDEFGABC
比率11.1181.2501.3371.4951.6721.8692
純正律とのセント差0.000-10.750.000+5.377-5.377+5.377-5.3770.000
平均律とのセント差0.000-6.843-13.686+3.422-3.422-10.265-17.1080.000

中全音律の全音は平均律より約6.8セント狭く、純正律における大全音と小全音の中間となることから中全音律と呼ばれる。また半音は平均律より約17.1セント広い。

中全音律では純正な長3度・短6度の音程が得られる一方、完全5度・短3度は約5.4セント狭く、完全4度・長6度は約5.4セント広くなる。

平均律

1 octave を均等に12等分し半音を定める音律を平均律と呼ぶ。

16世紀ごろから理論化が進められ、18世紀末ごろまでにほぼ一般的となった。

平均律による全音階を示す。

音名CDEFGABC
比率11.1221.2601.3351.4981.6821.8872
純正律とのセント差0.000-3.910+13.69+1.955-1.955+15.64+11.730.000
平均律とのセント差0.0000.0000.0000.0000.0000.0000.0000.000

平均律の全音は正確に半音の2倍である。

平均律は完全1度と完全8度を除き純正な音程にならないが、全ての調で均質な響きが得られ、転調や移調を自由に行うことができる。